米国史研究家 唐沢憲正氏を訪ねて

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 唐沢憲正氏は、商社マンとして約12年間滞在したアメリカでのゴルフ体験をもとに、2011年02月に「 アメリカゴルフの舞台裏 」として、単行本を出版されております。

 2014年08月中旬お目にかかり、本では書き尽くせなかったアメリカゴルフ事情を、伺って参りました。

【 ご経歴 】

  • 1936年東京生まれ。
  • 1960年早稲田大学第一政治経済学部卒業、兼松株式会社に入社。
  • 1964年春から4年間、その後70年代と90年代と3度に渡り都合約12年間、同社米国法人に勤務し、1年半のサンフランシスコ駐在を除き、大半をニューヨークで暮らす。

  • 自由人となった2000年夏以降も著作の取材などで何度か訪米。
  • 趣味のゴルフ歴50年。
  • 麻生カントリークラブと美野原カントリークラブの会員。
  • 米国史研究家。
  • 一般社団法人 ディレクトフォース会員。

【 著書 】

  • アメリカゴルフの舞台裏  (ゴルフダイジェスト社)
  • アメリカ駐在員引継書   (文芸社)
  • アメリカ企業を買収せよ! (PHP Publishing_山岸誠一郎氏との共著)

編集長_(アメリカゴルフの舞台裏) を執筆された経緯をお聞かせ下さい。
唐沢氏
ゴルフダイジェスト社のチョイスと言う月刊誌( 現在は季刊 )に、 時々依頼されてコラムを書いていました。コラムがたまってきたと言うのも有るんですが、いっそ単行本にしたらどうだろう、と言う事に成ったんです。
商社勤務時代、通算約12年間アメリカに居りましたので、ゴルフに関して当時体験できた事柄やエピソードなどを、ゴルフ業界人では無い立場から書いてみたいと思ったんです。

編集長_著書の中でトム・ワトソンに関する記述が印象に残ったのですが。
唐沢氏
トム・ワトソンを間近で見たのは、ナパで開催された1978年のアンハイザー・ブッシュ・クラシックで、9ホールついて廻りました。
私は丁度そのトーナメントの一年前に、サンフランシスコへ駐在となっておりましたので、運が良かったと言えます。
彼の全盛期だったのでプレーぶりは、素晴らしかったですよ。 常にピンに絡んでくるアイアンショットは、今なお印象に残っています。勿論ぶっちぎりの優勝でした。

編集長_トム・ワトソンは、どの様な人物なんですか。
唐沢氏
ミズリー州はセントルイスが一番大きな都市なんですが、州の西側の端にカンザスシティーと言う2番目に大きな街が有って、トム・ワトソンはそこの出身なんです。非常に保守的な街ですよ。

彼は典型的なクリスチャンで、 スコットランドから発生した、ゴルフの伝統を受け継いだプレーヤーなんです。規律などには、厳しいですね。
彼はジャック・ニクラスとも仲が良いんです。
アメリカは個人主義の国ですから、日本の様な派閥と言うか、何々軍団みたいなものは無いんです 。しかしとてもフレンドリーで、特にワトソンを嫌う人はいないと思いますよ。

編集長_トム・ワトソンがライダーカップのキャプテンですか?
唐沢氏
そうです。彼は現在64歳です。
ライダーカップは今年、2014年9月24日から28日にかけて行われるのですが、その時、彼は65歳になっています。これまでの最年長です。
これまでキャプテンは、40歳代、50歳代の選手がなるケースが多かったと思うんです。

ライダーカップは賞金が無く、有るのは名誉のみです。国と国、否正確には米国と欧州と言えばよいんでしょうか、その威信をかけて戦うわけですが、実績と人望のある人がキャプテンに選ばれるんです。
ワトソンは1993年に一度キャプテンに選ばれていて( 米国の勝利 ) 、今回二度目です。

2012年アメリカ・メディーナでのライダーカップ、アメリカは最終日のシングルス・マッチで3勝8敗1分と振るわず、13.5ポイント対14.5ポイントで逆転負けを喫しました。
屈辱の大会でしたから、今年の大会へかけるものは、前大会とは比べ物にならないと思います。
ワトソンが選ばれたのは、その雪辱への意気込みでもありますね。

編集長_トム・ワトソンが選ぶライダーカップの選手とは?
唐沢氏
ライダーカップの選手は、12名が選ばれるんです。1番から9番まではポイント順に自動的に選出されるんですが、残りの3名に付いては、キャプテンの選出に成るんです。

フィル・ミケルソンはポイントで9位以内に入らなくても、ワトソンは彼を選ぶと私は思います。フィル・ミケルソンはアメリカ人に圧倒的な人気が有るんですけど、その理由は、まずキャラクターが良い事ですよ。次に彼はアメリカ人好みのハンサムなんです。

お金持ちの子供では無く、環境に恵まれた訳では無いのですが、常に前向きな姿勢が良いんです。試合では二位が多いのですが、アメリカ人の判官びいきと言うものも有って、人気が有るんです。

彼の奥さんは以前、乳がんだったんです。今は幸い手術も成功して回復しているんですが、その様なフィル個人の環境も、応援される理由かもしれませんね。

ブッチ・ハーモンの弟子は、皆成績が良いんです。フィルだけでは無く、例えばザック・ジョンソン、リッキー・ファウラーもそうです。恐らくタイガーは、今年は選ばれないでしょう。

編集長_タイガースキャンダルとプロゴルフ界の状況は?
唐沢氏
タイガーの出現は、ゴルフ界にとって大きかったですね。市場価値が上がったんです。
しかし2009年11月のタイガーの不倫スキャンダル以降、スポンサー離れが進んで、当然タイガーをサポートしていた企業もそうですが、ゴルフ界からの企業離れが進んだんです。

今、PGAはバリューを高めようと、政策転換を図っています。否、PGAだけではないですね。全米プロゴルフ協会も、USGAもその他の組織も含め業界全体で、ゴルフを文化として、ビジネスとして価値を高めようとしています。

特に若いプレーヤーを、育成しようとしているんです。例えばリッキー・ファウラーとか。彼にはスポンサーが付いて来ていますよ。  

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編集長_アメリカスポーツ界でのゴルフの位置は?
唐沢氏
今、アメリカではサッカーの人気が急激に出てきました。アメリカ人も気づいてきたんです。サッカーがNo1スポーツでは無いかと。

アメリカではご存じの様に、アメフト、バスケ、野球、ゴルフに人気が有ります。しかし、小学生から出来るスポーツ、世界的に人気が有るスポーツ、プレーする層も厚く、見る層も厚い、そう言う意味でサッカーが注目されて来ています。

アメフトのスーパーボールのテレビ中継は、全米で一億人程が見る人気スポーツです。 アメリカ人はコンタクトスポーツが、大好きですから。
個人的には、アメフトは若干落ち目の様に感じます。

アメフトは大人のスポーツと言う感じですが、ゴルフはせいぜい中学生ぐらいでしょうか。とにかく、アメリカはプロスポーツ界同士での競争も又、厳しいです。

日本のゴルフの場合、若い人がやれる、地方の人達がやり易い環境を作っていかないと、全体的に先が明るく無い様に思えますネ。

編集長_ニューヨーク勤務が長かったと思いますが、ニューヨークでのゴルフは?
唐沢氏
ニューヨークでは、4月から11月中旬まで、ゴルフが出来ます。ニューヨーク市の公園は19世紀終わり頃に出来ているんですが、12もののパブリックコースが有るんです。

ニューヨークが誇る3コースとしては、
1、シネコック・ヒル・ゴルフ・クラブ
2、ウイングド・フット
3、ベスページ・ステイツ・パーク・ブラック
が挙げられるのでは無いかと思いますが、ベスページ以外はプライベートクラブです。これらのコースでは皆、メジャートーナメントが開催されています。

ベスページでは90年代中頃45ドルぐらいでラウンド出来たと思いますが、15ドルぐらいでまわれるパブリックコースも有ったと記憶していますね。

編集長_クラブとはどの様なものでしょうか?
唐沢氏
クラブと一口に言っても、名称は二つに分かれます。ゴルフクラブと、ゴルフ(アンド)カントリークラブです。
ゴルフクラブは文字通り、ゴルフをやる所といったイメージです。 カントリークラブはゴルフを中心に、プールやテニスコートも付いていたり、各種パーティも出来るゴルフ場とでも分類したら良いのでは無いかと思います。

日本では内容ではなく、ゴロ合わせと言うか、名称の響きで有るとか心地よさで、つけられているコースが多い様に聞いた事が有るんですが。

アメリカのプライベートクラブは、家族の延長と言う考え方が定着していますね。まあ、少しオーバーかもしれませんが、親戚、遠縁の集まり、と言う感じですか。ですから、ちょっとした家族の集まりや催事などは、クラブで行う事が多いですね。

編集長_社会的差別がクラブにも反映されていますか?
唐沢氏
差別とは、主に黒人を対象にした事だと思うんですが。キング牧師の1960年代までは、差別はひどかったですね。しかし、現在はほぼ解消されていると思います。これは法律上、一般社会での話です。

そうですね。あなたが言う様に、目に見えないものは、当然有るでしょうね。ただ、事ゴルフに関して言えば、自分の居心地の悪いクラブへ、入りたい人はいないでしょうから。

ゴルフ場のクラブに於いても、差別は解消する方向ではないですか。例えば一昨年、オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブへ女性が2名入会した事などでも、それは理解出来ます。

今年の全米プロの観客は、多かったです。しかし白人が多く、黒人は少なかった様に思えました。一つは、入場料が高いと言う事も有るかもしれません。 ケンタッキーのルイビルと言う所は、特に保守的な地域ですが、黒人人口も多いのです。

アメリカの歴史の中で、黒人が社会から阻害されていた事実が、ゴルフに関しても参加が遅れたと言えます。でも、1975年にはリー・エルダーがマスターズに、黒人として初めて招待されていますし、チャーリー・シフォードは世界ゴルフ殿堂入りしています。

           ( 著者がセントアンドリュースを訪ねた時の写真 ) Mr.karasawa_3.jpg

編集長_ご入会されていたリーウッドGCの事を教えて下さい。
唐沢氏
リーウッドGCへ入会する為には、2名の推薦人が必要でした。1名は会員ですが、もう1名は会員以外の方ですね。会員以外の方は、保証人では有りませんが、それなりの社会的地位の方を求められました。

支配人との面接が有りましてね、次の様な事を言われたのを、覚えています。
1、 週末のゴルフだけにクラブを利用しないで、様々なイベントにも参加して欲しい。
2、年間1,000ドルから1,300ドルくらいをクラブで利用して欲しい。
3、日本人会員は5名に押さえているので、日本人の友人を勧誘しないで欲しい。

日本の会員制クラブとは、かなりかけ離れている様に思いますよね。入会金は1万ドルもかからなかった様に覚えてますけど。正確な金額は覚えていませんね。

編集長_クラブの会員にベーブ・ルースがいたとか。
唐沢氏
そうそう、それがクラブの自慢でした。そしてとてつもなく豪快な人でした。彼は朝、ゴルフに来るんです。そして午後は、本業の野球にヤンキースタジアムへです。当時、ナイターは有りませんでしたから。

夜は、女性との夜遊びです。フルタイム彼は、忙しんですよ。

この忙しさを見かねたクラブは、彼の為に高速道路のインターチェンジを、クラブへの進入路近くに造ってしまったんです。彼はこの高速道路を利用して、球場へ通ったんです。

編集長_8番ホールの電話とは何ですか?
唐沢氏
8番ホールへ来ますとね、ティーインググランド横に電話が有るんですよ。そこで9番ホールで食べる軽食を、注文しておくんです。ハンバーガー、ホットドックなどです。

9番ホールは打ち下ろしのPar3なんですが、 ティーインググランド横に小さな小屋が有って、そこにはテーブルが2つぐらいあって、注文して於いたものを、即食べられるんです。

合理的と言えば合理的です。プレーヤーはそこでキャディに飲物をふるまいます。

編集長_ドレスコードは、どの様にお考えですか。
唐沢氏
商社時代にシドニー出張の際、 ひどいパブリックコースでラウンドしたんですが、 その時若い同僚がTシャツでカフェテリアへ入ろうとしたら、シャツは襟付きが規則 だと言われて、追い返された事が有りました。

この事は既に本の中でも、書きましたけど。

ドレスコードは、各クラブで決める事ですから、規律と品性を重んじる事は、大切だと思います。しかしパブリックコースなどで、ひどく醜く無ければ、気晴らしに来ている様な方たちに付いては、余り厳しくするのも如何かと思いますね。

ゴルフは規律と品性を重んじるスポーツであると、つくづく思いますね。英国人の特質を背負って発展してきたスポーツなのでしょう。

例えば、テニスなどもウインブルドンでは、確か選手の服装の85%以上が、白色でなければならない筈です。

規律と品性と言う事に関するエピソードと言えばですね、ロンドンで非鉄金属業界の国際会議が有ったんですが、その後、日本から参加した商社マン4人と、英国の会社の4人とでゴルフをする機会が有ったんです。

ラウンド後に彼らと軽食を共にしたんですが、英国の4人は全員、濃紺のブレザーにストライプのネクタイ姿だったんです。
彼らから 全員、貧乏なので、この服装しか持っていないんだ! )とジョークが返って来ました。             MR.karasawa by aonuma_2.jpg編集長_駐在中、様々な書籍に目を通されたと思いますが、権威があるレッスン書は、どの様なものが有りますか?
唐沢氏
そうですね、3冊あげられると思います。
一冊目は、ジャック・ニクラスの「Golf My Way」(1974年初版)
翻訳物が既に出版されていると思いますが、僕にとってはバイブルで、何度か読み返しました。心構えから技術論まで、最高のレッスン書と思いますね。

二冊目は、「Five Lessons : The Modern Fundamentals of Golf」(1957年初版)
これは既に邦題が、ベン・ホーガンの(モダンゴルフ)として出版されていて、日本でも多く目にします。

三冊目は、「Harvey Penick's Little Red Book Lessons and Teachings from a Lifetime in Golf)(1992年初版)
ハーベイ・ペニックの(レッドブック)として、既に翻訳物が出ていたと思います。

これらは古典的レッスン書として定評があります。たとえば、 ジョニー・ミラーなどもニクラスとホーガンの本は偉大な教科書だ、として読む事を奨めています。レッスン書の数は膨大ですから、読み過ぎは消化不足に成りますしネ。単成る読み物としては、良いんで しょうけど。

編集長_講演会では、PGAツアーのお話などをされている様ですが。
唐沢氏
そうですね。私は時たまですが、講演会などに呼ばれて、お話する事が有るんですよ。ロータリークラブなどでは、経営者の集まりですからね、なぜPGAツアーが隆盛をほこる様になったのか、と言う内容は、集まった皆さんもご興味をもって聞いて下さる様なんです。

30分ぐらいにまとめて話すのは難しいです。長いのは問題ないんですけど。

編集長_どの様にしてPGAツアーは、発展して行ったとお考えですか?
唐沢氏
そうですね。まとめてみると、次の様になりますか。

  1. 一つは、伝統を継承しつつエンターティメント産業へ、発展させた事でしょう。心技体に優れたプロゴルファーの輩出と厚いファン層、TVによる発信力、グローバル企業のスポンサーシップなどが、発展して行った背景には有ると思いますけど。
  2. 一つは、国際化を認めた事でしょう。
    International Players へPGAツアーの門戸を開放した事が、結果としてツアーの市場価値が上がりました。
  3. 一つは、コミッショナーであるTim Finchem 氏の卓越したリーダーシップでしょう。
    彼は1994年に就任して任期は2016年までですが、その存在感は大きいですよ。
  4. 一つは、慈善事業などを通じて、地域社会に貢献している事ではないですか。
  5. 一つは、PGAツアーは個人事業主の団体として、オーナー経営のチームスポーツであるMLB、NFL、NBAなどに上手に対抗して来ている事です。

これら五つの要素が上手く絡み合って、相乗的に発展して来たと言えるのでは、無いでしょうか?

編集長_今後のPGAツアーの動向で気になる点を挙げて頂くとすると?
唐沢氏
2016年から改定されるパッティングが、気になりますね。「anchored putting 禁止」には、賛否両論が有りましたが決定されました。

USGAやR&Aからの提案に対して、例えばパーマーやワトソン、タイガーなどは賛成しています。しかし禁止されるパッティング方法で、優勝しているプレーヤーも少数ですが過去にいますから。上手に移行出来るかどうか。

日本のシニアなどでも、 そのパッティングスタイルで戦っている選手も、多いと思いますから、大いに気になります。

編集長_今後、アメリカゴルフ界で活躍した日本人などを、取り上げて頂けませんか?
唐沢氏_そうですね。資料集めなどしてみましょう。

編集長_本日はお忙しい中、長時間に渡り、誠にありがとう御座いました。

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